――或シナリオ――
芥川龍之介
底本:「芥川龍之介全集6」ちくま文庫、筑摩書房
1987(昭和62)年3月24日第1刷発行
1993(平成5)年2月25日第6刷発行
底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房
1971(昭和46)年3月〜1971(昭和46)年11月
入力:j.utiyama
校正:かとうかおり
――或シナリオ――
芥川龍之介
65[#「65」は縦中横]
前の常磐木(ときわぎ)のかげにあるベンチ。背むしはやはり焼き芋を食っている。少年はやっと立ち上り、頭を垂れてどこかへ歩いて行(ゆ)く。
66[#「66」は縦中横]
斜めに上から見おろしたベンチ。板を透かしたベンチの上には蟇口(がまぐち)が一つ残っている。すると誰かの手が一つそっとその蟇口をとり上げてしまう。
67[#「67」は縦中横]
前の常磐木のかげにあるベンチ。ただし今度は斜めになっている。ベンチの上には背むしが一人蟇口の中を検(しら)べている。そのうちにいつか背むしの左右に背むしが何人も現れはじめ、とうとうしまいにはベンチの上は背むしばかりになってしまう。しかも彼等は同じようにそれぞれ皆熱心に蟇口の中を検べている。互に何か話し合いながら。
68[#「68」は縦中横]
写真屋の飾り窓。男女(なんにょ)の写真が何枚もそれぞれ額縁(がくぶち)にはいって懸(かか)っている。が、それ等の男女の顔もいつか老人に変ってしまう。しかしその中にたった一枚、フロック・コオトに勲章をつけた、顋髭(あごひげ)のある老人の半身だけは変らない。ただその顔はいつの間(ま)にか前の背むしの顔になっている。
69[#「69」は縦中横]
横から見た観音堂(かんのんどう)。少年はその下を歩いて行(ゆ)く。観音堂の上には三日月(みかづき)が一つ。
70[#「70」は縦中横]
観音堂の正面の一部。ただし扉(とびら)はしまっている。その前に礼拝(らいはい)している何人かの人々。少年はそこへ歩みより、こちらへ後ろを見せたまま、ちょっと観音堂を仰いで見る。それから突然こちらを向き、さっさと斜めに歩いて行ってしまう。
71[#「71」は縦中横]
斜めに上から見おろした、大きい長方形の手水鉢(ちょうずばち)。柄杓(ひしゃく)が何本も浮かんだ水には火(ほ)かげもちらちら映っている。そこへまた映って来る、憔悴(しょうすい)し切った少年の顔。