浅草公園

――或シナリオ――
芥川龍之介

浅草公園書籍情報


底本:「芥川龍之介全集6」ちくま文庫、筑摩書房
   1987(昭和62)年3月24日第1刷発行
   1993(平成5)年2月25日第6刷発行
底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房
   1971(昭和46)年3月〜1971(昭和46)年11月
入力:j.utiyama
校正:かとうかおり

浅草公園 7

――或シナリオ――
芥川龍之介

          49[#「49」は縦中横]

「XYZ会社特製品、迷い子、文芸的映画」と書いた長方形の板。これもこの板を前後にしたサンドウィッチ・マンに変ってしまう。サンドウィッチ・マンは年をとっているものの、どこか仲店(なかみせ)を歩いていた、都会人らしい紳士に似ている。後ろは前よりも人通りは多い、いろいろの店の並んだ往来。少年はそこを通りかかり、サンドウィッチ・マンの配(くば)っている広告を一枚貰って行く。

          50[#「50」は縦中横]

 縦に見た前の往来。松葉杖をついた癈兵(はいへい)が一人ゆっくりと向うへ歩いて行(ゆ)く。癈兵はいつか駝鳥(だちょう)に変っている。が、しばらく歩いて行くうちにまた癈兵になってしまう。横町(よこちょう)の角(かど)にはポストが一つ。

          51[#「51」は縦中横]

「急げ。急げ。いつ何時(なんどき)死ぬかも知れない。」

          52[#「52」は縦中横]

 往来の角(かど)に立っているポスト。ポストはいつか透明になり、無数の手紙の折り重なった円筒の内部を現して見せる。が、見る見る前のようにただのポストに変ってしまう。ポストの後ろには暗のあるばかり。

          53[#「53」は縦中横]

 斜めに見た芸者屋町(げいしゃやまち)。お座敷へ出る芸者が二人(ふたり)ある御神燈(ごしんとう)のともった格子戸(こうしど)を出、静かにこちらへ歩いて来る。どちらも何(なん)の表情も見せない。二人の芸者の通りすぎた後(のち)、向うへ歩いて行(ゆ)く少年の姿。少年はちょっとふり返って見る。前よりもさらに寂しい表情。少年はだんだん小さくなって行く。そこへ向うに立っていた、背(せ)の低い声色遣(こわいろつか)いが一人(ひとり)やはりこちらへ歩いて来る。彼の目(ま)のあたりへ近づいたのを見ると、どこか少年に似ていないことはない。

          54[#「54」は縦中横]

 大きい針金(はりがね)の環(わ)のまわりにぐるりと何本もぶら下げたかもじ。かもじの中には「すき毛入り前髪(まえがみ)立て」と書いた札(ふだ)も下っている。これ等のかもじはいつの間(ま)にか理髪店の棒に変ってしまう。棒の後ろにも暗のあるばかり。

          55[#「55」は縦中横]

 理髪店の外部。大きい窓硝子(ガラス)の向うには男女(なんにょ)が何人も動いている。少年はそこへ通りかかり、ちょっと内部を覗(のぞ)いて見る。

          56[#「56」は縦中横]

 頭を刈(か)っている男の横顔。これもしばらくたった後、大きい針金の環(わ)にぶら下げた何本かのかもじに変ってしまう。かもじの中に下った札(ふだ)が一枚。札には今度は「入れ毛」と書いてある。