――或シナリオ――
芥川龍之介
底本:「芥川龍之介全集6」ちくま文庫、筑摩書房
1987(昭和62)年3月24日第1刷発行
1993(平成5)年2月25日第6刷発行
底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房
1971(昭和46)年3月〜1971(昭和46)年11月
入力:j.utiyama
校正:かとうかおり
――或シナリオ――
芥川龍之介
25[#「25」は縦中横]
西洋人の女の人形。人形は静かに扇をひろげ、すっかり顔を隠してしまう。それからこの人形に中(あた)るコルクの弾丸(たま)。人形は勿論仰向(あおむ)けに倒れる。人形の後ろにも暗のあるばかり。
26[#「26」は縦中横]
前の射撃屋の店。少年はまた空気銃をとり上げ、今度は熱心に的(まと)を狙う。三発、四発、五発、――しかし的は一つも落ちない。少年は渋(し)ぶ渋(し)ぶ銀貨を出し、店の外へ行ってしまう。
27[#「27」は縦中横]
始めはただ薄暗い中に四角いものの見えるばかり。その中にこの四角いものは突然電燈をともしたと見え、横にこう云う字を浮かび上(あが)らせる。――上に「公園六区(ろっく)」下に「夜警詰所(やけいつめしょ)」。上のは黒い中に白、下のは黒い中に赤である。
28[#「28」は縦中横]
劇場の裏の上部。火のともった窓が一つ見える。まっ直(すぐ)に雨樋(あまどい)をおろした壁にはいろいろのポスタアの剥(は)がれた痕(あと)。
29[#「29」は縦中横]
この劇場の裏の下部(かぶ)。少年はそこに佇(たたず)んだまま、しばらくはどちらへも行(ゆ)こうとしない。それから高い窓を見上げる。が、窓には誰も見えない。ただ逞(たくま)しいブルテリアが一匹、少年の足もとを通って行く。少年の匂(におい)を嗅(か)いで見ながら。
30[#「30」は縦中横]
同じ劇場の裏の上部。火のともった窓には踊り子が一人現れ、冷淡に目の下の往来を眺める。この姿は勿論(もちろん)逆光線のために顔などははっきりとわからない。が、いつか少年に似た、可憐(かれん)な顔を現してしまう。踊り子は静かに窓をあけ、小さい花束(はなたば)を下に投げる。
31[#「31」は縦中横]
往来に立った少年の足もと。小さい花束が一つ落ちて来る。少年の手はこれを拾う。花束は往来を離れるが早いか、いつか茨(いばら)の束に変っている。
32[#「32」は縦中横]
黒い一枚の掲示板(けいじばん)。掲示板は「北の風、晴」と云う字をチョオクに現している。が、それはぼんやりとなり、「南の風強かるべし。雨模様」と云う字に変ってしまう。