浅草公園

――或シナリオ――
芥川龍之介

浅草公園書籍情報


底本:「芥川龍之介全集6」ちくま文庫、筑摩書房
   1987(昭和62)年3月24日第1刷発行
   1993(平成5)年2月25日第6刷発行
底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房
   1971(昭和46)年3月〜1971(昭和46)年11月
入力:j.utiyama
校正:かとうかおり

浅草公園 3

――或シナリオ――
芥川龍之介

          17[#「17」は縦中横]

「わたしの美しさを御覧なさい。」
「だってお前は造花じゃないか?」

          18[#「18」は縦中横]

 角(かど)から見た煙草屋の飾り窓。巻煙草の缶(かん)、葉巻の箱、パイプなどの並んだ中に斜めに札(ふだ)が一枚懸っている。この札に書いてあるのは、――「煙草の煙は天国の門です。」徐(おもむ)ろにパイプから立ち昇(のぼ)る煙。

          19[#「19」は縦中横]

 煙の満ち充ちた飾り窓の正面(しょうめん)。少年はこの右に佇(たたず)んでいる。ただしこれも膝の上まで。煙の中にはぼんやりと城が三つ浮かびはじめる。城は Three Castles の商標を立体にしたものに近い。

          20[#「20」は縦中横]

 それ等の城の一つ。この城の門には兵卒が一人銃を持って佇んでいる。そのまた鉄格子(てつごうし)の門の向うには棕櫚(しゅろ)が何本もそよいでいる。

          21[#「21」は縦中横]

 この城の門の上。そこには横にいつの間(ま)にかこう云う文句が浮かび始める。――
「この門に入るものは英雄となるべし。」

          22[#「22」は縦中横]

 こちらへ歩いて来る少年の姿。前の煙草屋の飾り窓は斜めに少年の後ろに立っている。少年はちょっとふり返って見た後(のち)、さっさとまた歩いて行ってしまう。

          23[#「23」は縦中横]

 吊(つ)り鐘(がね)だけ見える鐘楼(しゅろう)の内部。撞木(しゅもく)は誰かの手に綱を引かれ、徐(おもむ)ろに鐘を鳴らしはじめる。一度、二度、三度、――鐘楼の外は松の木ばかり。

          24[#「24」は縦中横]

 斜めに見た射撃屋(しゃげきや)の店。的(まと)は後ろに巻煙草の箱を積み、前に博多人形(はかたにんぎょう)を並べている。手前に並んだ空気銃の一列。人形の一つはドレッスをつけ、扇を持った西洋人の女である。少年は怯(お)ず怯(お)ずこの店にはいり、空気銃を一つとり上げて全然無分別(むふんべつ)に的(まと)を狙(ねら)う。射撃屋の店には誰もいない。少年の姿は膝の上まで。