――或シナリオ――
芥川龍之介
底本:「芥川龍之介全集6」ちくま文庫、筑摩書房
1987(昭和62)年3月24日第1刷発行
1993(平成5)年2月25日第6刷発行
底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房
1971(昭和46)年3月〜1971(昭和46)年11月
入力:j.utiyama
校正:かとうかおり
――或シナリオ――
芥川龍之介
72[#「72」は縦中横]
大きい石燈籠(いしどうろう)の下部。少年はそこに腰をおろし、両手に顔を隠して泣きはじめる。
73[#「73」は縦中横]
前の石燈籠の下部の後ろ。男が一人佇(たたず)んだまま、何かに耳を傾けている。
74[#「74」は縦中横]
この男の上半身。もっとも顔だけはこちらを向いていない。が、静かに振り返ったのを見ると、マスクをかけた前の男である。のみならずその顔もしばらくの後(のち)、少年の父親に変ってしまう。
75[#「75」は縦中横]
前の石燈籠の上部。石燈籠は柱を残したまま、おのずから炎(ほのお)になって燃え上ってしまう。炎の下火(したび)になった後(のち)、そこに開き始める菊の花が一輪。菊の花は石燈籠の笠よりも大きい。
76[#「76」は縦中横]
前の石燈籠の下部。少年は前と変りはない。そこへ帽を目深(まぶか)にかぶった巡査(じゅんさ)が一人歩みより、少年の肩へ手をかける。少年は驚いて立ち上り、何か巡査と話をする。それから巡査に手を引かれたまま、静かに向うへ歩いて行(ゆ)く。
77[#「77」は縦中横]
前の石燈籠の下部の後ろ。今度はもう誰もいない。
78[#「78」は縦中横]
前の仁王門(におうもん)の大提灯(おおじょうちん)。大提灯は次第に上へあがり、前のように仲店(なかみせ)を見渡すようになる。ただし大提灯の下部だけは消え失(う)せない。
(昭和二年三月十四日)